いますね。
僧一 もう重《おも》なお弟子衆《でししゅう》はみなおいでなされましたね。
僧二 まだお見えにならないのは二、三人だけでございます。
僧一 重《おも》なお弟子衆《でししゅう》は皆|聖人《しょうにん》様のお枕《まくら》べに集まっていられます。
僧二 夕方から急にお模様がお変わりあそばしましたようでございます。御臨終もほど近くと思われます……あゝお輿《かご》が来ました。
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輿一丁登場。急ぎ門のほうに来る。
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輿丁 遠江《とおとうみ》の専信房様の御到着でございます。
僧一 皆様のお待ちかねでございます。すぐに奥院へお越しなされませ。
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輿、門に入り退場。
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勝信 (不安のおももちにて急ぎ門より登場)慈信房様はまだ御到着あそばしませぬか。
僧一 いまだお見えなさいませぬ。お奥の御模様は?
勝信 (第一の門のほうを注意しつつ)もう御臨終でございます。(空を仰ぐ)おゝ、変な月の色。
僧二 もう引き潮時になります……あ、輿が来ました。
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輿一丁登場。急ぎ門のほうに来る。勝信注意を集める。
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輿丁 高田の顕智房様の御到着でございます。
僧一 急ぎ奥院へ。もはや御臨終でございます。
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輿、門に入り、退場。
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勝信 善鸞様のおそいこと。(庭をうろうろする)
僧一 もはやお越しあそばさなくてはお間に合いませぬが。
僧二 (不安なる沈黙)灯《ひ》が。提灯《ちょうちん》でございます……輿が来ました。
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勝信注意を緊張する。輿一丁登場。急ぎ門のほうに来る。
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勝信 (輿《かご》のほうに馳《は》せ寄る)善鸞様ではございませぬか。
輿丁 はい。稲田《いなだ》の慈信房様で。
善鸞 (輿より飛びおりる)
勝信 善鸞様。
善鸞 おゝ、勝信殿。父は、父は?
勝信 もはや御臨終でございますぞ。
善鸞 おゝ。(よろめく)
勝信 御勘気はとけました。
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