せんしん》(弟子《でし》)
   顕智《けんち》(弟子)
   橘基員《たちばなのもとかず》(武家)
   家来            二人
   侍医
   輿丁《かごかき》            数人
   僧             数人
[#ここで字下げ終わり]

      第一場

[#ここから3字下げ]
善法院境内の庭。
正面および右側に塀《へい》。右側の塀の端に通用門。塀の向こうに寺の建物見ゆ。庭には泉水あり。そのほとりに静かな木立ち、その陰に園亭《えんてい》あり。道は第一の門(見えず)を越えて、境内に入り庭を経て、通用門に入るこころ。朝。

[#ここから5字下げ]
お利根とお須磨と園亭で手まりをついている。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
お利根 (手まりを拾う)今度はあたしよ。須磨さま。(まりをつく)
二人 (歌う)

[#ここから4字下げ]
手まりと手まりとゆき合うて、
一つの手まりがいうことにゃ、
姉《あね》さん、姉さん、奉公しょう。
…………………………
ちゅんちゅん雀《すずめ》が鳴いている。
奥様奥様おひなれや。
…………………………
お寺の門で日が暮れて、
西へ向いても宿がなし、
東へ向いても宿がなし…………
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
お利根 (まりを落とす)あら。
お須磨 そらまりがそれた。(まりを拾おうとする)
お利根 (すばやくまりを拾いあげてすぐつきかける)
お須磨 あたしよ。ねえさま。
お利根 お待ちよ。も一度あたしよ。今のはかんにんよ。
お須磨 いやよ。私がつくのよ。
お利根 お待ちと言ったら。
お須磨 いや。いやですよう。(涙ぐむ)
お利根 (かまわずつきかける)茶の木の下に宿があって……
お須磨 (まりをとろうとする)あたしだわ。あたしだわ。
お利根 (くるりと横を向く)一ぱいあがれや長六さん。二はいあがれや長六さん。三杯目にゃ……
お須磨 (泣きだす)ねえさま。ひどいよ。
お利根 (おどろく)さあ。あげましょう。これ。(まりを持たせようとする)
お須磨 (振り放す)いやだよ。いやだよ。(声を高くして泣く)
勝信 (登場。髪を上品な切り髪にしている。門を出ると二人の争うているのを見て馳《は》せ寄る)どうしたのだえ。須磨ちゃん。
お須磨
前へ 次へ
全138ページ中120ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング