の心にでも聖《きよ》さはあります。純な恋をすることはできます。どのような人かわかりもしないのに、初めから悪いものと疑うのはいけないと思います。一つの事に一生懸命になるときには人間はまじめになるのです。私は最前からあなたがたのお話を聞いていて、あなたがたが女に対してまじめな考えを持っていらっしゃらないのを感じました。そのような考えが女を悪くさせたのではありますまいか。
僧三 あなたは私たちに説教する気ですか。(冷笑する)
唯円 (逆上する)あなたがたは私を愛してくださらないのです。私は初めから冷たい気に触れて、心が堅くなるような気がしました。愛してはくださらないのです。(涙ぐむ)最前あなたが舌をべろりとおっしゃった時にあなたの口もとには卑しい表情が漂いました。あの女が私はよごれているといって涙をこぼして手を合わせて私にすまないといってわびた時には聖《きよ》い感じがあらわれました。いったいにこのごろあの女は信心深くなりました。私は時々あの女から純な宗教的な感じのひらめきに打たれてありがたいとさえ思うているのです。
僧二 あなたは仏様のかわりにあの女を拝んだらいいでしょう。
唯円 (立ち上がる)私はごめんをこうむります。(行こうとする)
僧三 (さけぶ)勝手になされませ。
僧一 (制する)そんなに荒くなってはいけません。唯円殿まあお待ちなされませ。
唯円 (すわる)私はなさけなくなります。(涙ぐむ)
僧一 あなたは自分のしている事を悪いとはお思いなさらぬのですか。
唯円 皆様のおっしゃるように悪いとは思っていません。
僧一 ではなぜうそを言って外出《そとで》あそばすのですか。
唯円 …………
僧一 やはりよくないところがあるのですよ。私はお若いから無理はないとは思いますがね。またきびしくは申しませんがな。少し考えなすったらいいでしょう。ほかの若い弟子《でし》たちの風儀にもかかわりますからな。
唯円 うそをついて出たのは重々悪うございました。私がお師匠様に打ち明けなかったのがいけなかったのです。私はいつも心がとがめていました。
僧一 お師匠様に打ち明けるのですって。
唯円 はい。何もかもつつまずに。
僧一 そんな事がよく考えられますね。
僧二 あつかましいといってもほどがあります。
僧三 どんなにご立腹あそばすか知れません。
唯円 でもお師匠様は恋をしてはならないとはおっし
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