。あなたを責めるのは無理です。他人の罪です。その他人の加えた傷害のために、あなたはそのように苦しんでいるのです。そのために自分の一生の幸福さえもあきらめようとしているのです。なんという事でしょう。私はこの事実を呪《のろ》います。恐ろしい事です。不合理な事です。皆悪魔のしわざです。おゝ、私は悪魔に挑戦します。(拳《こぶし》を握る)
かえで 皆悪魔です。冷酷な鬼です。毎晩その悪魔が来て恥ずかしい事を仕掛けるのですもの。それがみんな、しつこいのですもの。
唯円 その小さな、美しいからだに。おゝ。(よろめく)
かえで (唯円をささえる)唯円さま。唯円さま。
唯円 ちくしょう! 私はこうしてはいられない。(かえでに)私はあなたを悪魔の手から守らなくてはなりません。一日も早くあなたをその境遇から救い出さねばなりません。しっかりしていてください。気を落としてはいけません。今に、今に私があなたを助け出します。
かえで でも一度汚れたからだはもう二度と――
唯円 その事はもうおっしゃいますな。あなたはその事で決して私に気がねをなさいますな。あなたの罪ではないのですから。それどころではありません。私はあなたがたといこれまで自分でどのようなきたない罪を犯していらしっても、私はそれをゆるしてあなたを愛する気なのです。
かえで (涙ぐむ)まあ、それほどまでに私を愛してくださいますの。
唯円 (痙攣的《けいれんてき》にかえでを抱く)永久にあなたを愛します。あなたは私のいのち[#「いのち」に傍点]です。
かえで (唯円の胸に顔を押し当てる)いつまでも、かわいがってくださいよねえ。
唯円 いつまでも。いつまでも。
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両人沈黙。叢《くさむら》の陰から子供の歌がきこえる。やがて子供四人登場。女の子ばかり。手ぬぐいをかぶり、籃《かご》を持っている。唯円、かえで離れる。
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子供一 (歌う)蕗《ふき》のとう[#「とう」に傍点]十になれ、わしゃ二十一になる。
子供二 見つけた。(蕗《ふき》のとう[#「とう」に傍点]を摘む)
子供三 ここにもあってよ。
子供四 入れてちょうだい。(籃《かご》をさし出す)もうこんなにたんと[#「たんと」に傍点]になってよ。
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子供たち唯円とかえでを見てちょっと黙って躊
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