１字下げ］
善鸞 膝頭《ひざがしら》で歩いてみろ。
太鼓持ち こうでござりますか。（膝頭であるく）
［＃ここから５字下げ］
遊女たち笑う。
［＃ここで字下げ終わり］
［＃ここから改行天付き、折り返して１字下げ］
善鸞 お前の頭をたたいてみろ。
太鼓持ち おやすいことで。（おのれの頭を扇子で打つ）
善鸞 （狂うように）もっと、もっと。
［＃ここから５字下げ］
太鼓持ちつづけざまにおのれの頭を打つ。
［＃ここで字下げ終わり］
［＃ここから改行天付き、折り返して１字下げ］
善鸞 おゝ。（目をつぶる）
遊女二 たいそうお沈みなされましたのね。
浅香 （いとしそうに善鸞を見る）善鸞様。私は知っていますよ。お寺へやった使いの事で、心がお苦しいのでござりましょう。
［＃ここから５字下げ］
一座やや白ける。善鸞黙って考えている。
［＃ここで字下げ終わり］
［＃ここから改行天付き、折り返して１字下げ］
遊女一 何を考えていらっしゃるの。
遊女二 たいそうお沈みなされましたのね。
善鸞 （急に浮き浮きする）今お前を身受けする事を考えていたのだ。
遊女二 （笑う）それは大きにありがとう。身受けしてどうなされます。
善鸞 はて知れた事。連れて帰って女房にする。さあこっちにおいで。（立ち上がり、遊女の手を取って引き立てる）
遊女二 じょうだんはおよしあそばせ。
善鸞 さあ、こっちにおいで。（無理に引っぱる）
遊女二 （よろよろして引っぱられる）いたずらをなさいますな。（振り放して座に返ろうとする）
善鸞 かわゆいやつめ。（後ろから遊女二を抱きしめる）
遊女二 あれ、放してください。放してください。（身をもがく）そんなになすっては、せつなくて、せつなくて、しょうがありはしないわ。
善鸞 （笑う）なんて色気の無い人だ。この人は。
［＃ここから５字下げ］
一同驚いて見ている。仲居登場。
［＃ここで字下げ終わり］
［＃ここから改行天付き、折り返して１字下げ］
仲居 ただ今唯円様がお見えになりました。
善鸞 （遊女二を放す。やや動揺す）ここに通してくれ。（座に返る）
［＃ここから５字下げ］
一同沈黙、唯円登場。衣を着ている。
［＃ここで字下げ終わり］
［＃ここから改行天付き、折り返して１字下げ］
唯円 御免くださいまし。（一座の光景に打たれ、ちょっと躊躇《ちゅうちょ》する）
善鸞 よく来てくださいまし
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