です。
親鸞 祇園《ぎおん》、清水《きよみず》、知恩院《ちおんいん》、嵐山《あらしやま》の紅葉ももう色づきはじめましょう。なんなら案内をさせてあげますよ。
同行一 はいありがとうございます。
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この時夕方の鐘が鳴る。
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唯円 お師匠様。夕ざれて、涼しくなって参りました。もうお居間でお休みあそばしませぬとおからだにさわりますよ。
同行四 どうぞお休みなされてくださいまし。
同行五 私たちはもうお暇《いとま》申します。
親鸞 いや、今夜は私の寺にお泊まりください。これから私の居間でお茶でも入れて、ゆっくりとお話しいたしましょう。(弟子たちに)お前たちもいっしょにいらっしゃい。唯円、御案内申しあげておくれ。
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親鸞先に立ちて退場。皆々立ちあがる。
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唯円 さあ、どうぞこちらにお越しなされませ。
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[#地から4字上げ]――幕――
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    第三幕

      第一場

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三条木屋町。松《まつ》の家《や》の一室(鴨川《かもがわ》に臨んでいる)
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人物 善鸞《ぜんらん》(親鸞《しんらん》の息)      三十二歳
   唯円《ゆいえん》
   浅香《あさか》(遊女)        二十六歳
   かえで(遊女)       十六歳
   遊女三人
   仲居二人
   太鼓持ち
時  秋の日ぐれ

遊女三人欄干にもたれて語りいる。
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遊女一 冷たい風が吹いて気持ちのいいこと。
遊女二 顔が燃えてしょうがないわ。(頬《ほお》に手をあてる)
遊女三 私は遊び疲れてしまいました。
遊女一 この四、五日は飲みつづけ、歌いつづけですものね。
遊女二 私は善鸞様に盛りつぶされ、酔いくたびれて逃げて来ました。
遊女三 善鸞様はいくらでもむちゃにおあがりなさるのですもの。とてもかないませんわ。そのくせおいしそうでもないのね。
遊女一 飲むほど青いお顔色におなりなさるのね。
遊女二 ばかにはしゃいでいらっしゃるかと思えば、急に泣きだしたりしてほんとうに変なかたで
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