文化指導階級を責め鞭った心事が身に近く共感されるのを覚える。
 今日の日本の現状は日蓮の時代と似たおもむきはないであろうか。
 われわれは現在の政治的権力、経済的支配、文化的指導に対して、抗争せずにいられるであろうか。
 今の日本の知識層を一般に支配している冷淡と、無反応との空気は決して健康の徴候ではないのである。その空気は祖国への無関心を伴うたものであり、新しき祖国への愛に目ざめしめることが一般的に文化への熱情を呼び起こす前提である。
 そのためには具体的の共同体というものが、父母から発生し、大家族を通しての、血族的、言的共生を契機とし、共同防敵によって統一され、師長による文化伝統の教育と、共存同胞による衣食の共同自給にまつものである事情、すなわち父母と、師長と、国土とへの恩愛と従属との観念を呼びさまさなければならない。そしてそれこそ日蓮の強調したところのものである。日本の知識層は実は文化に冷淡なのではなく、民族的文化、国家的思潮に冷淡なのである。そしてこのことたる全く従来の文化的指導者の認識のあやまりに由るのである。
 日本の文化的指導者は祖国への冷淡と、民族共同体への隠されたる反
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