しまった中年のリアリストの恋愛など学生は軽蔑してあわれんでおればいい。それは多くは醜悪なものであり、最もいい場合でも、すでに青春を失ってしまったところの、エスプリなき情事《リーブシャフト》にすぎないからだ。

     二 倫理的憧憬と恋愛

 性の目ざめと同時に善への憧憬が呼びさまされるということは何という不思議な、そしてたのもしいことであろう。これが青年の健康性の標徴だ。ヒューマニティーの根源だ。この二つのものは同時に起こるだけでなく、まじり合い、とけ合って起こるのだ。この二つがまじり合って起こらないなら、それは病的徴候であり、人間性の邪道に傾きを持ってるものとして注意しなければならぬ。
 青年にとって性の目ざめは肉体的な、そして霊的な出来ごとである。この湧き上ってくる衝動と、興奮と、美しく誘うが如きものは何であろう。人生には今や霞がかかり、その奥にあるらしい美と善との世界を、さらに魅力的にしたようである。若き春!
 地上には花さえ美しいのにさらに娘というものがある。彼女たちは一体何ものだ。自然から美しく創りなされて、自分たちを誘うような、少なくとも待ってるように見えるこの人間群は
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