フ美を増すがごとく、もし達観すれば世界は罪を持ちながら美であるといっている。われらはライプニッツ以来議論の多いこの説明が、この世界より悪の存在を除き去るに完全なるものとは思わない。そこには種々の疑問が挾み得るであろうが、氏のごとく自然の円満と調和とに純なる憧憬を有する人にとっては、その企図の方針はむしろ当然のことであると思う。氏にとりてはもともと精神と自然と二の実在があるのではない。両者はただちに唯一実在である。その実在の統一力が神である。自己の本然的要求は神の意志と一致するのである。宇宙は唯一実在の唯一活動であり、その全体は悪を持ちながらに善である。

       四

 宗教は自己に対する要求である。自己を真に生かさんとする内部生命の努力である。欠けたるものの全きを求むる思慕である。みずから貧しくして、偽りに満ち、揺らめきて危うきを知る謙遜なる心が、豊かにして、まことに、金輪際《こんりんざい》動揺せざる絶対の実在を求むる無限の憧憬である。一人|※[#「螢」の「虫」に代えて「几」、75−13]然《けいぜん》として生きるに耐えざる淋しき魂が、とこしえに変わらざる愛人と共に住まんと欲す
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