゚」という声を聞けば一生懸命になるんだ。耳を澄ませば滔々《とうとう》として寄せ来る唯物論の大潮の遠鳴りが聞こえる。われらは、pure experience と Vorstellung との城壁に拠ってこの自殺的真理の威嚇の前に人類の理想を擁護せねばならない。
 ああ愛する友よ、わが掌の温けきを離れて、蘆《あし》そよぐ枯野の寒きに飛び去らんとするわが椋鳥《むくどり》よ、おまえのか弱い翼に嵐は冷たかろう。おまえに去られて毎日泣いて待っている私のところへ、さあ早く帰ってお出で。
[#地から2字上げ](一九一二・二)
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 生命の認識的努力

       一

 われらは生きている。われらは内に省みてこの涙のこぼるるほど厳粛なる事実を直観する。宇宙の万物は皆その影をわれらの官能の中に織り、われらの生命の内部に潜める衝動はこれに能動的に働きかけて認識し、情感し、意欲する。かくて生命はおのれみずからの中に含蓄的(implicit)に潜める内容をしだいに分化発展してわれらの内部経験は日に日に複雑になってゆく。この複雑なる内部生命はおのれみずからの存在を完全ならしめ、かつ存在の意識を確
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