、「ええッあの中にあばれ込んでできるだけしつこく楽しんでやりたい」といったようにしか思えなかったからである。愛着の影さえ荒んで見えたのである。私は君がみずから緑草芳しき柔らかな春の褥《しとね》に背を向けて、明けやすき夏の夜の電燈輝く大広間の酒戦乱座のただなかに狂笑しに赴くような気がしてならない。四畳半に遠来の友と相対して湿やかに物語るの趣は君を惹かなくなって、某々会議員の宴会の夜の花やかさのみが君の心をそそるようになるようにも思われる。君はいま利己的快楽主義の鉾《ほこ》をまっこうに振《ふ》り翳《かざ》して世の中を荒れ回らんとしている。快楽の執着、欲求の解放、力の拡充、財の獲得! ああ君の行方には暗澹たる黒雲が待っている。恐ろしい破滅が控えている。僕はこれを涙なくしてどうして見過ごすことができよう。これらもみな今までの君のライフが充実していなかったがためである。しみじみと統一的に生き得なかったためである。そう思えばますますいとしくなる。揃いも揃って美しい七人の姉妹の間に、父母の溺愛にちやほやされて、荒い風に揉まれず育った君は素直な、柔らかな稚松《わかまつ》であった。思えば六年前僕らが初め
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