かし群衆の反応の中に自己の影像を発見しようと努めることとフィロソフィック・クールネスとははたして両立し得るであろうか。身オブスキュリチーに隠るるとも自己の性格と仕事との価値をみずから認識してみずから満足しなくては、とても寂しい思索生活は永続しはしない。君の言のごとく自己の記念碑を設立せんと欲するのは万人の常ではあるが、君、どうかそこをいま少し深刻に、真面目に考えてくれたまえ。君は他人より古い、小さい、弱いと思っては満足できぬ人間なのだから、エミネンシイに対する欲求も無理とはいわない、がそこを忍耐しなくては豪《えら》い哲学者にはなれない。君が目下の急務はフィロソフィック・クールネスの修養だ。何事も至尊至重のライフのためだ。後生だからエミネンシイとポピュラリチーとの欲求を抑制してくれたまえ。君はあくまでも尊い哲学者になりたまえ。私は熱心に研究してる。この頃くだらぬ朋友と皮一重の談笑するのが嫌でならない。独歩や藤村等のしみじみした小説、大西博士、ショウペンハウエル、ヴントを読んでる。

 今日はじつにいい天気だ。空は藍色を敷き詰め、爽やかな春風を満面に孕《はら》んだ椎《しい》の樹の梢を掠《か
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