キかなものである。それは弱くて、稀《まれ》に起こり、苦しきものである。けれど一度この愛を自覚したるものはこれを忘れることはできない。小さいけれど輝き、濡れている。天を向いている。われらの心のなかに君たるの品格を備えて臨んでいる。私はこの愛の真理であることを疑うことはできない。まことに古《いにし》えの敬虔なる説教者が愛は本来人間のものではなく、神より来たりしもの、浄《きよ》めの聖霊であるというたのもまことと思われるほど私の心のなかの他のものより際だって輝いて見える。私の心のなかの生来の要求にそむきながら、僅かな領分しか占めないにもかかわらず、そしてその要求に従うことは限りなき苦痛となるにもかかわらず、なおかつ侵しがたき命令的要素を持てる愛の不思議なことよ! 私は愛することはなかなかできないけれど私は愛せねばならない。それは唯一の善いことである。徳の泉である。天に昇る道である。生物は永い永い間互いに食い合ってきた。みずから何をなしているかをも知らずに互いに犯しあってきた。けれどいつしか自己の姿をみずから認めることができるようになった。ショウペンハウエルの哲学においても意志がいかにして認識す
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