烽フのすべての歌は始めて目醒む。
わが魂もまた愛するものの歌なり。
[#ここで字下げ終わり]

 と歌っているように偉大なる者、完成せるものにはみずから愛せんとする要求があると思う。私はかかる境地に向かって憧れ進みたい。
 花やかな幻の世界は永久に私の前に閉ざされた。私はもっと強実なる人生を欲する。代赭色《たいしゃいろ》の山坂にシャベルを揮う労働者や、雨に濡れて行く兵隊や、灰色の海のあなたに音なく燃焼して沈む太陽を見るときに、まだ私に残された強実な人生の閃《ひら》めきに触れて心がおどる。私はこの一文をして「愛と認識との出発」たらしめたい。偉大なる愛よ、わが胸に宿れ、大自然の真景よ、わが瞳に映れかし。願わくばわが精霊の力の尽きざるうちに、肉体の滅亡せざらんことを。
[#地から2字上げ](一九一三・一一・二五)
[#改ページ]

 隣人としての愛

 人と人との接触に関心する人々の心にあって最も重き地位を占むるものはいうまでもなく愛の問題である。愛は初め花やかなる一団の霞のごとくに、たのしく、胸をおどらす魅力を備えて私らの前に現われる。愛を凝視せよ、愛を生きよ、そのとき私たちは初めて愛の種
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