{能的な愛は私の期待したごとくけっして鞏固《きょうこ》ではなかった。女の恋愛には精神生活の根底がなかったために、その崩れ方はじつに脆《もろ》かった。私は一種の錯誤に陥っていた。私の尨大《ぼうだい》なる形而上学的の意識生活を小娘の本能的な愛の上に据えつけた。それが瓦壊の源であった。
本能的の愛は一時は炭火のごとく灼熱しても愛して倦《う》まぬ持久性がない。覚悟と努力との上に建たざるがゆえに外敵に対する抵抗力が乏しい。敵とは何か、他の本能である。精神生活より発する愛は諸種の本能を一度思考の対象として、それを統一した上に発したる一種の形而上学的努力の感情である。本能的な愛の熱烈は他の本能を一時蔽うている状態である。ゆえに他のこれと駢列《へんれつ》する本能をもってアッタックせらるるとき崩れてしまうのである。私は真の生活が精神生活でなければならないことを痛感する。いやしくも私らが生活につきて意識的になるとき、すなわち真の意味において生活するようになったとき、その生活は理想的要素を含める精神生活(Geistesleben)でなければならない。真の生活は自然主義の生活にあらずして理想的、著しくいわば
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