キる。
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恋を失うた者の歩む道
――愛と認識との出発――
私は苦痛を訴えたり同情を求めたりする気はない。私は今そんなことをしてはいられない。私は生涯にまたとあるまじき重要な地位に立ってるのだから。私は今こそしっかり[#「しっかり」に傍点]せねばならない時である。見る影もなく押し崩された精神生活、そしてそれを支うべき肉体そのものの滅亡の不安――私の生命は内よりも外よりも危機に迫っている。私は自己を救済すべく今いかになすべきか。また何をなし得るのか。「生に事《つか》うるに絶対に忠節なれ」私はすべての事情の錯雑と寒冷と急迫との底に瞑目《めいもく》してかく叫ぶ。かく叫ぶとき心の内奥に君臨するものは一種の深き道徳的意識である。いっさいの約束を超越して、ただちに「生」そのものに向けられたる義務の感情である。それはある目的を意志するによりて必然に起こる義務ではない。それみずからの内に命令的要素を含む義務の感情である。私は今にいたりて初めてカントが道徳に断言的命令を立した心持ちに同感せられて、カントの深刻さが打ち仰がるる。危険に脅かさるる身
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