ない。その意味において自分のこの稚き一文はかなりな効果ある役目を果たすであろうと思っている。またこの書にはかなりしばしば同一思想の反復あるいは前後矛盾せる文章を含んでいる。これはすなわち自分が同一の問題を繰り返し、くりかえし種々の立場より眺め、考え、究めんとせるためおよび思索と体験の進むに従って、前には否定したものをも摂《と》り容《い》れ、あるいは前に肯定したものをも、否定するに至ったためである。思想が必然的連絡を保って成長してゆく過程を痕《あと》づけるものとして、かかる反復と矛盾とは、避くべからざるものであるのみならずまたその思索と体験の真摯なることを証するものであると思う。
この書は青年としてまさに考うべき重要なる問題をことごとく含んでいるといってもいい。すなわち「善とは何ぞや」、「真理とは何ぞや」、「友情とは何ぞや」、「恋愛とは何ぞや」、「性欲とは何ぞや」、「信仰とは何ぞや」等の問題を、たといけっして解決し得てはいないまでも、これらに関する最も本質的な|考え方《デンケンスアルト》を示している。しこうして考え方はある意味において解決よりも重要なのである。一般に自分はこの書の学術的
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