烽謔闥シ観できる。私はこれを疑うことはできなかった。しかしながら他人の存在が私にとっていかばかり確実であろうか。この形而上学の大問題は実際私の手に余ったにもかかわらず、私はどうかして考えを纏めなければならなかった。私はここに認識論の煩瑣《はんさ》な理論を書くことを欲しないが、とにかくその頃の私は唯心論の底に心を潜ませていた。私はどう思っても主観の Vorstellung としてのほかは他人の存在を認めることができなかった。私にとっては他人の存在は影のごとく淡きものにすぎなくなった。とても自己存在の確認とは比較にならない力の乏しいものになってしまった。私はやや大なる期待をもってあの人格的唯心論(personal idealism)をも研究したのであるが、その他われの存在を設定する過程にどうしても首肯することができなかった。私は唯心論が行くところまで行くとき必ず帰着しなければならないように唯我論に陥ってしまった。
「天が下に独りわれのみ存す」という意識が私をおののかした。私はそぞろに寒き存在の寂寞に慄えつつも、また極端なる自己肯定の権威と価値とに、いうべからざる厳粛なる感に打たれるのであっ
前へ
次へ
全394ページ中103ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング