旧家があって、鸚鵡蔵という怪体《けったい》な土蔵があるとのこと、しめた! そういう土蔵《むすめ》の胎内にこそ、とんだ値打のある財宝《はららご》があるってものさ、こいつア割《あば》かずにゃアいられねえと、十日あまりこの辺りをウロツキ廻り、今夜念願遂げて肚ア立ち割り調べたところ、有った有った凄いような孕子があった。現在《いまどき》の小判から見りゃア、十層倍もする甲州大判の、一度の改鋳《ふきかえ》もしねえ奴がザクと有った。有難え頂戴と、北叟笑いをしているところへ、割いた口から今度は娘っ子が転がり込んで来た! 黄金《かね》に女、盆歳暮一緒! この夏ア景気がいいぞ!」
グーッと綱五郎は抑え込んだ。
(無念!)と菊弥は、抑え付けられた下から刎返そう刎返そうと※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]きながら、
(烈士、別木荘左衛門の一味、梶内蔵丞《かじくらのじょう》の娘の自分が、こんな盗賊に!)
抑えられている口からは声が出ない! 足で床を蹴り、手を突張り、刎返そう刎返そうと反抗《あらが》った。
そう、菊弥は娘なのであった。父は梶内蔵丞と云い、承応元年九月、徳川の天下を覆そうとした烈士、別木荘左衛門の同志であった。事あらわれて、一味徒党ことごとく捕えられた中に、内蔵丞一人だけは遁れ終わせ、姓名を筧求馬《かけいもとめ》と改め、江戸に侘住居をした。しかし大事をとって、当歳であった娘のお菊を、男子として育てた。というのは、幕府《おかみ》において、梶内蔵丞には娘二人ありと知っていたからであった。その菊弥も、官吏《かみやくにん》や世間の目を眩ますことは出来たが、土蔵破《むすめし》の綱五郎の目は欺むけず……
だんだん抵抗力《ちから》が弱って来た。
(何人《どなた》か……来て! 助けてエーッ)
そういう声も口からは出ない。
と、この時蔵の中が、仄かな光に照らされて来た。光は、次第に強くなって来た。蔵の奥に、二階へ通っている階段があり、その階段から光は下りて来た。段の一つ一つが、上の方から明るくなって来た。と、白布で包んだ人の足が、段の一つにあらわれた。つづいて、もう一方の足が、その次の段を踏んだ。これも白布につつまれている。
黒羽二重の着物を着、手も足も白布で包み、口にお篠の生首を銜え、片手に手燭を持った男が、燠のように赤い眼、ふくれ上った唇、額に瘤を持ち、頤に腐爛《くずれ
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