等の歌の意味を、むずかしくお考えになりました。そのため難解に墜落ました。彼等の歌には意味は無く、文字に意味があったのでございます。既ち初の文句では、その頭にある「武」という文字に、意味があったのでございます。そうして其の次の文句ではその最後にある「将」という文字に、意味があったのでございます。そうして三番目の文句では、矢張り頭にある「霊」という文字に意味があったのでございます。そうして四番目の文句では、又最後の「柩」という文字に、意味があったのでございます、このようにして頭と尻との、各一字ずつの文字を取り、そのまま順序よく並べますと、次のような一連の言葉となります。
[#ここから2字下げ]
武将霊柩在地下
必不浄不可建
[#ここで字下げ終わり]
 武将の霊柩地下に在り、必ず不浄を建つ可からず。――このようになるのでございます。ところで何うしてこの私が、それに気が付いたかと申しますに、彼等が歌をうたう時、頭と尻とへ特別に、力を籠めるからでございました。……で、恐らくお屋敷内の便所の下に古武将の柩が、埋めてあるのでございましょう。その上へ便所が立ちましたので、その霊魂が憤慨し、仇をしたものと存ぜられます」
 そこで老人と正雪とは、急いで便所を取り壊し、その地の下を掘って見た。果たして一個の霊柩があり、甲冑を鎧った骸骨が、その附近に散在していた。



底本:「妖異全集」桃源社
   1975(昭和50)年9月25日発行
初出:「ポケット」
   1926(大正15)年3月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※底本には以下に挙げるように誤植が疑われる箇所がありましたが、正しい形を判定することに困難を感じたので底本通りとし、ママ注記を付けました。
○練金術:「錬金術」の誤記か。
入力:阿和泉拓
校正:門田裕志、小林繁雄
2004年12月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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