不器用極まる鴉片の煉り方とに、先刻から見入って居ったのさ。
「僕、煉ってあげましょうか」
とうとう僕はこう云った。
「有難う、どうぞお願いします」
そう云った少年の声の美しさ、そう云った少年の声の優しさ、又もや僕は恍惚《うっとり》としてしまった。
僕はそれからその少年のために、鴉片を煉りながら話しかけた。
3
「これ迄喫ったことはないのですか?」
「鴉片を喫うのは今日がはじめてです」
「なるほどそれでは煉れないはずだ。……がそれなら鴉片なんか喫わない方がいいのですがね」
「こんな大戦争を起こす程にも、みんな喫いたがる鴉片なのですから、私も喫いたいと思いましてね」
「そう、誰もがそう云ったような、誘惑を感じて喫いはじめ、喫ってその味を知ったが最後、みすみす廃人となるのを承知で、死ぬまで喫うのが鴉片ですよ。……全く御国の人達と来ては、鴉片中毒患者ばかりです」
「御国の人? 御国の人ですって? ……では貴郎《あなた》は外人なのですか?」
(しまった!)と僕は思ったよ。
とうとう化けの皮を現わしてしまった。
友よ! 僕はね、八年もの間、この支那の国に住んでいるので、言葉も風俗も何も
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