[#「僕のような生活を生活」に傍点]している者に、そんな招待をするなんて、何て冒険的な女達だろう」――つまりこういう意味なのだ。
 僕のような生活を生活している者? のような生活[#「のような生活」に傍点]とはどんな生活なのか? おそらく君は知りたいだろうね。よろしい云おう、その中《うち》に云おう。
 とにかくこうして当日となり、その日が暮れて夜となり、その夜が更けて深夜となった。桂華徳街の百○参号、そこが僕の家なのだが、果たしてその処へ一挺の轎《かご》が、数人の者によって担い込まれた。
 僕は新しい衫《さん》を着け、そうして新しい袴《こ》を穿いて、懐中に短刀――鎧通《よろいどおし》[#ルビの「よろいどおし」は底本では「ろよいどおし」]さ、兼定《かねさだ》鍛えの業物だ、そいつを呑んで轎に乗った。
(淫婦どもめ、思い知るがいい!)
 こういう心持を持ちながら、轎に乗ったというものさ。
 さて轎は道を走った。その道筋を細描写しても、君には面白くあるまいと思う。で、一切はぶくことにする。
 轎は目的の館へ着いた。
 そこが「加華荘舎」の在場所なのさ。僕は一室に通された。
 ここで僕はこの館の構造《つくり》を、ほんの簡単にお知らせしよう。
 階段があると思ってくれたまえ。そうだ一筋の階段が。その階段を上り切った所に、一つの小広い部屋があり、その部屋から無数に細い廊下が、四方に通っているのだよ。そうしてその廊下の行き止まりに、一つずつ小さな婦人部屋があり、そこに会員達がいるのだそうだ。又、階段を下り切った所に、同じく小広い部屋があり、その部屋から今度は一筋の廊下が、一方の方へ通じて居り、その行き止まりに風呂場がある。そうしてその風呂場の一方の壁に、秘密の扉《ドア》が出来て居り、そこを出ると廊下となる。この廊下は充分長く、そうして風呂場と平行していて、そうして左右に部屋があるのだ。そうだ、いくつかの寝室が。会員の数だけの寝室が。
 で、召されたミメヨキ男は、先ず風呂に入れられて、すっかり体を洗われて、一つの寝室へ寝かされるのだ。と、互いに籤引きをして、真先に当選した会員の女が、これも最初風呂へ入り、体を洗いお化粧をし、それから男の寝ている部屋へ、導かれて侵入する。
 もうその後は書く必要はあるまい。
 さて、すっかり陶酔してしまうと、又女は風呂へ入り、綺麗に汗と膏《あぶら》とを
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