の壁が左右へあいた。
「ここだここだ」と云う声がした。
「これじゃアまるで化物屋敷だ」
 またも度胆を抜かれたが、そこは大胆の鬼小僧、かまわず中に入って行った。地下へ下りる階段があった。それを下へ下りた。畳数にして五十畳、広い部屋が作られてあった。しかも日本流の部屋ではない。阿蘭陀《オランダ》風の洋室であった。書棚に積まれた万巻の書、巨大な卓《テーブル》のその上には、精巧な地球儀が置いてあった。椅子の一つに腰かけているのが、例の鶴髪の老人であった。
 ここに至って鬼小僧は、完全に度胆を抜かれてしまった。で、ベタベタと床の上に坐った。その床には青と黄との、浮模様|絨氈《じゅうたん》が敷き詰められてあった。昼のように煌々と明るいのは、ギヤマン細工の花ランプが、天井から下っているからであった。
「雲州の庭、よく解《わか》ったな」
 老人はこう云うと微笑した。手には洋書を持っていた。
「へえ、随分考えました。……雲州様なら松江侯、すなわち松平|出雲守《いずものかみ》様、出雲守様ときたひには、不昧《ふまい》様以来の風流のお家、その奥庭の結構は名高いものでございます。……雲州の庭というからには、そ
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