たば》れ死れ!」
だが侍は死らなかった。煙りを潜《くぐ》って走って来た。
「わッ、不可《いけ》ねえ、追って来やがった!」
吾妻橋の方へ逃げかけた時、天運尽きたか鬼小僧は、石に躓《つまず》いて転がった。得たりと追い付いた侍は、拝み討ちの大上段、
「小僧、今度は遁さぬぞ!」
切り下ろそうとした途端、にわかに侍はよろめい[#「よろめい」に傍点]た。
「お杉様!」とうめくように云った。
やにわに飛び起きた鬼小僧、侍の様子を窺ったが、
「え、何だって? お杉さんだって? 俺もお杉さんを探しているんだ。赤前垂のお杉さんをな。……お前さんそいつ[#「そいつ」に傍点]を知ってるのか? 俺にとっちゃアお友達、同じ浅草にいたものだ」
「お杉様!」と侍はまた云った。
「貴女《あなた》は死にかけて居りますね。……恋の一念私には解《わか》る。……餓えてかつえ[#「かつえ」に傍点]て死にかけて居られる」
侍はベタベタと地に坐った。
驚いたのは鬼小僧で、呼吸《いき》を呑んで窺った。
「細い細い糸のような声! 私を呼んでおいでなさる。三之丞様! 三之丞様と!」
「お前さん三之丞って云うのかい。……そうして
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