。江戸へ帰ろう」
翌日二人は追分を立ち、中仙道を江戸へ下った。
この頃不思議な盗賊が、江戸市中を横行した。鼓を利用する賊であった。微妙きわまる鼓の音が、ポン、ポン、ポンと鳴り渡ると、それを耳にした屋敷では、必ず賊に襲われた。どんなに奥深く隠して置いても、きっと財宝を掠められた。大名屋敷、旗本屋敷、そうでなければ大富豪、主として賊はこういう所を襲った。不思議といえば不思議であった。屋敷を廻って鼓が鳴る。それ賊だと警戒する。無数の人が宿直《とのい》をする。しかしやっぱり盗まれてしまう。鼓賊《こぞく》、鼓賊とこう呼んで、江戸の人達は怖《お》じ恐れた。「何のために鼓を鳴らすのだろう? どういう必要があるのだろう?」こう人々は噂し合ったが、真相を知ることは出来なかった。南町奉行|筒井和泉守《つついいずみのかみ》、北町奉行|榊原主計守《さかきばらかずえのかみ》、二人ながら立派な名奉行であったが、鼓賊にだけは手が出せなかった。跳梁跋扈《ちょうりょうばっこ》に委《まか》すばかりであった。
この評判を耳にして一人|雀躍《こおどり》して喜んだのは、「玻璃窓《はりまど》」の郡上《ぐじょう》平八であっ
前へ
次へ
全324ページ中73ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング