浪も高く風も強く、そうしてあたりは薄暗かったが、忽然一せきの帆船が行く手の海上へあらわれた。べつに変ったところもない、普通の親船にすぎなかったが、しずかにしずかに八幡丸を、あっぱくするように近寄ってきた。ちょうどこの時平八は、船のへさきに胡坐《あぐら》をかき、海の景色をながめていたが、その鋭い探偵眼で、賊船であることを見てとった。
「ははあ、いよいよおいでなすったな」
 ニヤリとほくそ笑んだものである。
 正直のところ平八は、海賊を待っていたのであった。そうして彼は十中八九、現われてくるものと察していた。というのは八幡丸は、船脚が遅くかこ[#「かこ」に傍点]が少なく、しかも船としては老齢なのに、某《なにがし》大名から領地へ送る、莫大《ばくだい》もない黄金を、無造作《むぞうさ》に積みこんでいるからで、こういう船を襲わなかったら、それこそ海賊としては新米であった。

    武士の剣技精妙を極む

 八幡丸のかこ[#「かこ」に傍点]どもが、海賊来襲に気がついたのは、それから間もなくのことであったが、しかしその時は遅かった。賊船から下ろされた軽舟が、すでに周囲《まわり》をとりまいていた。と、
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