《もなか》、草木山川|白皚々《はくがいがい》、見渡す限り雪であった。自然はことごとく色を変えた。しかし再び夏が来れば、また緑は萌え出よう。だが甚三は帰って来ない。遠離茫々《えんりぼうぼう》幾千載。たとえ千載待ったところで、死者の甦えった例《ためし》はない。如露《にょろ》また如電《にょでん》これ人生。命ほどはかないものはない。
人は往々こういう場合に、宗教的悟覚に入るものであった。しかし甚内は反対であった。
「この悲しさも、このはかなさも、富士甚内とお北とのためだ。討たねば置かぬ! 討たねば置かぬ! 敵の名前は富士甚内、富士に対する名山と云えば、俺の故郷の浅間山だ。それでは今日から俺が名も、浅間甚内と呼ぶことにしよう。聞けば昔京師の伶人、富士と浅間というものが、喧嘩をしたということだが、今は天保|癸未《みずのとひつじ》ここ一年か半年のうちには、どうでも敵を討たなければならぬ」
いよいよ復讐の一念を、益※[#二の字点、1−2−22]ここで強めたのであった。
二人が江戸へ着いたのは、それから間もなくのことであった。
子柄がよくて不具というので、かえってお霜は同情され、千葉家の人達か
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