たところであった。
 で、松五郎の話にも、大して気乗りしてはいないのであった。「どうせアブレるに違いない、今度アブレたらそれを機会に、一切探索にはたずさわるまい。頭を丸めて法衣を着て、高野山へでも登ってやろう。ああああ浮世は面白くねえ」
 こんなことを思いながら、彼はポツポツ歩いて行った。
 阪東米八の掛け小屋は、かなり立派で大きかった。絵看板も美しく、「名人地獄」と記した文字も、躍り出しそうに元気がよい。
 しばらく見ていた平八は、木戸を潜って内へはいった。
 ギッシリ見物が詰まっていた。そうして幕が開いていた。上野山下池ノ端、美しい夜景が展開されていた。と、一人の人物が、鼓を打ちながら現われた。縦縞の結城紬《ゆうきつむぎ》、商人じみた風采であった。
「ははあこいつが鼓賊だな」
 平八は口の中で呟いた。と、もう一人の人物が、それを追いながら走り出た。古ぼけた紋服、古ぼけた袴、年の頃は五十四、五、皺の寄った痩せた顔、郡上平八そっくりであった。
「ううん、さてはこいつだな、松五郎めがいいにくそうに、あくどいつくりだといったのは! いかにもこれはあくど過ぎる。だが、それにしても不思議だな。
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