極めた邸の様子

「もうこうなりゃア謡なんか、どうなろうとままのかわ[#「ままのかわ」に傍点]だ。面白いのは恋愛だ! 恋よ恋よ何んて素敵だ!」
 これが銀之丞の心境であった。
 つまり彼は九郎右衛門の娘、お艶《つや》というのと恋仲になり、楽しい身の上となったのであった。
 だがしかし恋の描写は、もう少し後に譲ることにしよう。

 助太刀の依頼に応じてからの、観世銀之丞というものは、九郎右衛門の別荘へ、夜昼となく詰めかけた。
 彼の眼に映った別荘は、まことに奇妙なものであった。まずその構造からいう時はきわめて斬新奇異なもので、宅地の真ん中と思われる辺に、平屋造りの建物があった。一番広大な建物で、城でいうと本丸であった。ここには九郎右衛門の肉親と、その護衛者とが住んでいた。その建物の真ん中に、一つの大きな部屋があった。九郎右衛門の居間であった。あらゆる珍奇な器具類が、隙間もなく飾ってあった。すなわち過ぐる夜偶然のことから、銀之丞がこの家を訪れた時、呼び込まれたところの部屋であった。その部屋は四方厚い壁で、襖や障子は一本もなく、壁の四隅に扉を持った、四つの出入り口が出来ていた。そうして四つの
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