「主人の身分か? 主人の身分はな……いやおれは何んにも知らねえ」
「ははあ隠《かく》すつもりだな」
「おれは何んにも知らねえよ」
「で、お嬢様は別嬪《べっぴん》かな?」
「おれは何んにも知らねえよ」
「いよいよ隠すつもりだな」
「おれはちっとばかりしゃべり過ぎたからな」
「ところでお前は何者だな?」
「おれは何んにも知らねえよ」
「ふざけちゃいけない、馬鹿なことをいうな」
「ああおれか、別荘番だよ」
「うん、そうか、別荘番か。『主知らずの別荘』の別荘番だな」
「別荘番の丑松《うしまつ》ってんだ」
「噂は以前から聞いていたよ」
「おれは銚子では名高いんだからな」
「そうだ、お前は名高いよ。『主知らずの別荘』と同じにな」
「ところでお前さん、何者だね?」
「おれか、おれは能役者だ」
「ああ役者か、何んだ詰まらねえ」
「口の悪い奴だ。詰まらねえとは何んだ」
駕籠から覗いた美しい女
「姓名の儀は何んていうね?」
「姓名の儀はとおいでなすったな。姓名は観世銀之丞」
「ほほん、銀之丞か。役者らしい名だ。詰めていうと銀公だな。そうじゃアねえ、銀的だ」
「口の悪い奴だ。いよいよ口が悪い。が
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