に傍点]なかなか上手だな」至極《しごく》早速な性質と見えて、その侍は話しかけた。
「どこでそれほど仕込んだな?」
「これはこれはお武家様、お褒めくだされ有難い仕合わせ」かこ[#「かこ」に傍点]は剽軽《ひょうきん》に会釈したが、「自然に覚えましてございますよ」
「自然に覚えた? それは器用だな」こういいいい侍は、帆綱の上へ腰を掛けたが、「実はなわしにはその追分が、特になつかしく思われるのだよ」
「おやさようでございますか」
「というのは他でもない。その文句なりその節なり、それとそっくりの追分を、わしは信州の追分宿で聞いた」
 するとかこ[#「かこ」に傍点]は笑い出したが、「甚三の追分でございましょうが」
「これは不思議、どうして知っているな?」
「信州追分での歌い手なら、私の兄の甚三が、一番だからでございます」
「お前は甚三の弟かな?」
「弟の甚内でございます」
「そうであったか、奇遇だな」侍はちょっと懐かしそうに、「いや甚三の弟なら、追分節はうまい筈だ」
「ところがそうではなかったので、唄えるようになりましたのは、このごろのことでございます」
「というのはどういう意味だな?」侍は怪訝《
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