やまない粉雪《こゆき》のために、薄く蔽《おお》われておりますが、これがきわめて大切な点で、ほかの無数の足跡と比べて蔽われ方が著しゅうござる。つまりそれはその足跡が、どの足跡よりも古いという証拠だ。すなわち足跡の主人公は、駕籠より先に堤を通り、駕籠の来るのを木の蔭で、待っていたことになりましょうがな」「いかにもこれはごもっとも。そしてそれからどうしましたな?」一閑斎は熱心に訊いた。
「まず提灯を切り落としました」「それは私《わし》にもうなずかれる。提灯の消えたのは私も見た」

    横歩きの不思議な足跡?

「それから駕籠へ近寄りました。その証拠には同じ足跡が、これこのように桜の木蔭から、駕籠の捨ててあった所まで、続いているではござらぬかな」「なるほどなるほど続いておりますな。そうしてそれからどうしましたな?」「駕籠から女を引き出しました」「さっき聞こえたは女の悲鳴、これはいかさまごもっとも。駕籠にいたのは女でござろう」「いやそればかりではございません。女の証拠はこれでござる」
 平八は雪の上を指差した。たびをはいた華奢《きゃしゃ》な足跡が、幾個《いくつ》か点々とついていた。
「ははあ
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