は創造したいのだ!」「何、創造? 何をつくるのだ?」「何んでもいい、ただ何かを」「勝手につくったらよいではないか」「創造するに感激がいる」「大きに勝手に感激するさ」「ところがひとの世[#「ひとの世」に傍点]が許さない」「なに無理にも感激するさ」「無理にも感激しようとすると、親友なるものが邪魔をする」「え? 親友が邪魔をするって?」「恋も一つの感激だ。せっかく情女《おんな》を見つけると、親友が邪魔をしてひき放してしまう」「それは女が悪党だからよ」「愛する物を捨てるのもまさしく一つの感激だ。すると親友が取りかえして来る」「それも物によりけりだ。伝家の至宝を失っては、先祖に対しても済むまいがな」「みやこに住むということは、おれにとっては感激だ。ところがおせっかいの親友なるものが、山の中へひっ張って来る」「その男が虚弱《よわい》からだ。その男が病気だからだ。そうだ少くとも神経のな」「で、何もかもその親友は、平凡化そうと心掛ける。そうして感激の燃える火へ、冷たい水をそそぎかけ、創造の魂《たましい》を消そうとする。しかも親友の名のもとにな。他はおおかた知るべきのみだ」
「おい!」と造酒は気不味《きまず》そうに、「親切で行《や》った友達のしわざを、そうまで悪い方へ取らないでも、よかりそうなものに思われるがな」
「アッハハハ」と銀之丞は、突然大声で笑ったが、「怒るな、怒るな、怒ってはいけない。鬱《ふさ》ぎの虫のさせるわざだ。ああしかし退屈だな。何もかも面白くない。ああ実際退屈だな」
「ご免ください」
とそのとたん、襖の蔭から声がした。同時にスーと襖が開き、隣り座敷の商人客《あきゅうどきゃく》が、にこやかに顔を突き出した。
「お武家様のお座敷へ、旅商人の身をもって、差出がましくあがりましたは、尾籠《びろう》千万ではございますが、隣り座敷で洩れ承われば、どうやら大分ご退屈のご様子、実は私も退屈のまま、何か珍しい諸国話でも、お耳に入れたいと存じまして、お叱りを覚悟でまずい面を、突き出しましてござりますよ。真《ま》っ平《ぴら》ご免くださいますよう」
ていねいにお辞儀をしたものである。
不思議な商人千三屋
「おお町人か、よく来てくれた。ちょうど無聊に苦しんでいたところだ。さあさあずっと進むがよい」平手造酒は喜んで、歓迎の意を現わした。
「では遠慮なくお邪魔致します」商人《あき
前へ
次へ
全162ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング