れねえ」「だが、どうして助け出す?」造酒は呻くように訊きかえした。「主知らずの別荘だって、どこにあるのかわからないではないか」「ナーニ、そんなことは訳はねえ。刀の鞘の鞘口へ、粘土が詰められてありましたね。そいつが崩れていなかったのは、永く海にいなかった証拠だ。いずれ手近のこの辺に、別荘はあるに違えねえ。銚子からはじめて付近の港を、これからズッと一巡し、人に訊いたら解りましょうよ」「いかさまこれはもっともだ。では一緒に尋ねようか」「いうにゃ及ぶだ。参りましょう!」そこで二人は手をたずさえ、町の方へ走って行った。

    造酒と次郎吉別荘へ忍ぶ

 次郎吉とそうして平手造酒とが「主知らずの別荘」のあり場所について、最初に尋ねた家といえば、好運にもお品の家であった。そこで二人は一切を聞いた。銀之丞が銚子へ来たことも、お品の家に泊まっていたことも、主知らずの別荘へ行ったきり、帰って来なかったということも。
「だからきっと銀之丞様は、いまでもあそこの『主知らずの別荘』に、おいでなさるのでございましょうよ」こういってお品は寂しそうにした。そこで二人はあすともいわず、今夜すぐに乗り込んで行って、造酒としては銀之丞を救い、次郎吉としては莫大もない、別荘の中の財宝を、盗み取ろうと決心した。
 別荘へ二人が忍び込んだのは、その夜の十二時近くであった。不思議なことに別荘には、何の防備もしてなかった。刎《は》ね橋もちゃんと懸かっていたし、四方の門にも鍵がなかった。で、二人はなんの苦もなく、広い構内へ入ることが出来た。中心に一宇の館があり、その四方から廊下が出ていて、廊下の外れに一つずつ、四つの出邸のあるという、不思議な屋敷の建て方には、二人ながら驚いた。しかし、それよりもっと驚いたのは、その屋敷内が整然と、掃除が行き届いているにも似て、闃寂《げきじゃく》[#「闃寂」は底本では「※[#「闃」の「目」に代えて「自」]寂」]と人気のないことで、あたかも無住の寺のようであった。
 しかしじっと耳を澄ますと、金《かつ》と金と触れ合う音、そうかと思うと岩にぶつかる、大濤《おおなみ》のような物音が、ある時は地の下から、またある時は空の上から、幽《かす》かではあったけれど聞こえて来た。
「平手さん、どうも変ですね」次郎吉は耳もとで囁いた。「気味が悪いじゃありませんか」
「うむ」といったが平手造酒は、じっ
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