。多四郎は四方を見廻した。戦いには地の利が肝心だ。……こう思ったからでもあろう。この時橇は山と谿との狭い岨道《そばみち》を走っている。
いつの間にか空が曇り、一旦止んでいた牡丹雪が風に連れて降って来た。見る見る月影は薄れて行きやがて全く消えてしまった。
雪明りで仄々《ほのぼの》とわずかに明るい。
この時、多四郎は右の手をまた懐中《ふところ》へ差し込んだが何か確《しっか》りと握ったらしい。と、じっ[#「じっ」に傍点]と眼を据えて権九郎の背中を睨んだものである。
岨道《そばみち》を曲がると眼の前へ広漠たる氷原が現われた。吹雪は次第に勢いを加え吠えるようにぶつかって[#「ぶつかって」に傍点]来る。犬が苦しそうに喘《あえ》ぎ出した。そうして度々逃げようとして繋《つな》ぎの紐《ひも》へ喰い付いた。とそのつど権九郎の鞭がしたたか[#「したたか」に傍点]背中を打つのであった。
「さあ今だ! さあ今だ!」
多四郎は自分で自分の胸へこう口の中で云い聞かせながらジリジリと前へ寄って行った。その時、岩にでも乗り上げたものか不意に橇が傾いた。とたんに多四郎は懐中からヌッと腕を引き抜いたが、その手が空
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