天かな?」
「そうしてそりゃあどこにあるのだ?」
「鼓《つづみ》ヶ|洞《ほら》の絶壁の上に」
「ふうん、それじゃ窩人部落か?」
「天狗の宮の内陣にな。……そこに大きな木像がある。身の長《たけ》二丈で鎗《やり》を持っている。……宗介天狗の木像よ。……つまり彼奴《きゃつ》らの守り本尊だ」
「それがいったいどうしたんだい?」
「木像は甲冑《かっちゅう》を着ているのよ」
「それは大きに勇ましいことで」
「その甲冑が一万両だ!」
「どうも俺にゃ解らねえ」
「甲《かぶと》も冑《よろい》も黄金細工よ、小判に鋳直《いなお》せばまず一万だ」
「……が、どうして盗む気だな? まさか部落も通れめえ」
すると多四郎はひょいと[#「ひょいと」に傍点]立ったが、そこに置いてある松明《たいまつ》を取ると焚火へくべ[#「くべ」に傍点]て火を移した。
「おお権九、ちょっと来ねえ、胆《きも》の潰《つぶ》れるものを見せてやろう」
先に立って小屋を出た。
で、権九郎も続いて出る。
戸外の雪は松明に照らされボッとそこだけ桃色に明るみ凄愴《せいそう》として美しい。
多四郎は雪を踏み砕き絶壁の方へ歩いて行ったが、急に立ち
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