気かもしれない。……
 だんだん火事は大きくなるな。行って様子を見たいものだ。だが俺の出府した事は、殿にも家中にも知らせてない。顔を出すのも変な物だ」
 谷中から下谷へ出た。
「さてこれからどうしたものだ。葉之助殿には至急会いたい。窩人の血統だということを教えてやる必要があるようだ」
 火事は漸次《だんだん》大きくなった。下谷辺は騒がしかった。人々は門に立って眺めていた。
「とにかくこっそり[#「こっそり」に傍点]駕籠《かご》へでも乗り、葉之助殿の屋敷を訪ねてみよう。頼みたいこともあるのだからな」
 駕籠屋が一軒起きていた。
「おい、芝までやってくれ」
「へい、よろしゅうございます」
 威勢のいい若者が駕籠を出した。で北山はポンと乗った。
 駕籠は宙を飛んで走り出した。
 銀座手前まで来た時であった。前方にあたって鬨の声が聞こえた。大きな喧嘩《けんか》でも起こったようであった。
「旦那旦那大喧嘩です」
 駕籠|舁《か》きはこう云って駕籠を止めた。
「裏通りからやるがいい」
 駕籠の中から北山が云った。
 そこで駕籠は木挽町《こびきちょう》へ逸《そ》れた。

         二三

 
前へ 次へ
全368ページ中334ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング