杉右衛門の背後に岩太郎がいた。
「時は来た!」と杉右衛門が云った。「水狐族めと戦う時が!」
 窩人達は一斉に立ち上がり、杉右衛門の周囲を取り巻いた。「おい岩太郎話してやれ」杉右衛門が岩太郎にこう云った。
 つと岩太郎は前へ出た。
「みんな聞きな、こういう訳だ。火事だと聞いて見に行った。烏森《からすもり》の辻まで行った時だ、真ん丸に塊まった一団の人数が、むこうからこっちへ走って来た。誰かに追われているようだった。武士《さむらい》もいれば町人もいた。男もいれば女もいた。その時俺は変な物を見た。若い女と若い男だ。人の背中に背負われていた。衣裳の胸に刺繍《ぬいとり》があった。それを見て俺は仰天《ぎょうてん》した。青糸で渦巻きが刺繍《ぬいと》られていたんだ。白糸で白狐が刺繍られていたんだ。水狐族めの紋章ではないか。そいつら二人は孫だったのだ。水狐族の長《おさ》久田の姥《うば》のな! さあ立ち上がれ! やっつけてしまえ! 間もなくこっちへやって来るだろう。敵の人数は二百人はあろう。だが、味方も五十人はいる。負けるものか! やっつけてしまえ! ……俺は急いで取って返した。一人で切り込むのはわけ[#「
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