、食い殺させようとしたのであった。
そうして教主をはじめとし、大勢の教徒達が屋根の上から、それを見ようとしているのであった。
羅馬《ローマ》にあったという演武場! 西班牙《スペイン》に今もある闘牛場! それが大江戸にあろうとは!
信じられない事であった。信じられない事であった。
が、厳たる事実であった。現に猛獣がいるではないか。ジリジリ逼《せま》って来るではないか。
そうだ猛獣は逼って来た。
狼群は円い輪を作り、葉之助の周囲《まわり》を廻り出した。しかし決して吠えなかった。訓練されているからであった。吠えたら世間に知られるだろう。世間に知られたら露見の基であった……で、かすかに唸るばかりであった。
もちろん熊も吠えなかった。ただ「ウオーッ」と唸るだけであった。
さすがの鏡葉之助も、頭髪逆立つ思いがした。
「もう駄目だ、もういけない」
彼は悲惨にも観念した。人間同士の闘いなら、まだまだ遁がれる道はあった。相手は群狼と熊とであった。遁がれることは出来なかった。葉之助は脇差しを投げ出した。それから大地へ端座した。眼を瞑《つ》むり腕を組んだ。猛獣の襲うに任せたのであった。
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