助は美少年、女のような優姿《やさすがた》。しかも一人だというところから、侮《あなど》りきって構えもつけず、颯《さっ》と横撲りにかかって来た。そこを自得の袈裟掛《けさが》け一刀、伊那高遠の八幡社頭で、夜な夜な鍛えた生木割り! 右の肩から胸へ掛け、水も堪《た》まらず切り放した。
武士は「わっ」と悲鳴を上げた。そうして畳へころがった。プーッと吹き出す血の泡沫《しぶき》が、松明の光で虹《にじ》のように見えた。と、もうその時には葉之助は、ピタリ中段に付けていた。
「えい」とも「やっ」とも、声を掛けない。水のように静かであった。返り血一滴浴びていない。
一瞬間ブルッと武者顫いをした。全身に勇気の籠もった証拠だ。
ワーッと叫んで信者どもはバラバラと後へ退いた。しかしすぐに盛り返した。迷信者は何物をも恐れない。
左右から二人かかって来た。
「やっ! やっ! やっ!」
「やっ! やっ! やっ!」
心掛けある武士であった。二人は気合を掛け合った。左右へ心を散らせようとした。が、それはムダであった。葉之助は動かなかった。凝然《じっ》と正面を見詰めていた。
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敵をただ打つと思う
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