抜いた。
 小野派一刀流真の構え! 中段に付けて睨み付けた。

         一二

 背後《うしろ》へ廻られてはたまらない。彼は羽目板を背に背負《しょ》った。
 眼に余る大勢の相手であった。八方へ眼を配るべきを彼は逆に応用した。正一眼一心前方ただ正面をひたすら[#「ひたすら」に傍点]に睨んだ。飛び込んで来る敵を切ろうとするのだ。
「横竪上下遠近の事」一刀流兵法十二ヵ条のうち、六番目にある極意であった。
 正面をさえ睨んでいれば、横竪上下遠近の敵が、自ら心眼に映ずるのであった。と云ってもちろん初学者には――いやいや相当の使い手になっても、容易にそこまでは達しられない。ただ奥義の把持者《はじしゃ》のみが、その境地に達することが出来る。そうして鏡葉之助は、その奥義の把持者であった。剣にかけては天才であった。だが彼は疲労《つか》れていた。毒薬を飲まされた後であり、地下に埋められた後であった。しかし非常な場合には、超人間的勇気の出るものであった。
 構えた太刀には隙がなかった。
 と、一人飛び込んで来た。
 大兵肥満《だいひょうひまん》の武士であった。もちろん信者の一人であった。
 鏡葉之
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