議であった。
溺れる者は藁《わら》をも掴む。で、葉之助は環を掴み、力まかせに引いてみた。
その瞬間に起こったことは、彼にとっては奇蹟よりも、もっと驚くべきことであった。
忽然《こつぜん》彼の体の下へ、四角の穴が開いたのであった。ザーッと落ちる土とともに、彼の体は下へ落ちた。
狼穽《おとしあな》かそれとも他の何か? とにかくそこには人工の穴が、以前《まえ》から掘られていたのであった。
そこへ落ち込んだ葉之助は、あまりの意外に茫然とした。が、幸い怪我《けが》はしなかった。穴も深くはないらしかった。で、手探りに探ってみた。
「やや、ここに横穴がある」彼は思わず声を上げた。そうだ、そこには横穴があった。考えざるを得なかった。
「この縦穴を這い出したなら、玄卿の屋敷へ出ることが出来る。幸い両刀は持っている。憎い玄卿めを討ち取ることも出来る。しかし俺は衰弱《よわ》っている。これほどの姦策《かんさく》をたくらむ奴だ、どんな用意がしてあろうも知れぬ。あべこべ[#「あべこべ」に傍点]に討たれたら悲惨《みじめ》なものだ。……さてここにある横穴だが、何んとなく深いように思われる。いっそこれを辿《た
前へ
次へ
全368ページ中285ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング