小間使いであった。片手に錫《すず》製の湯差しを持ちもう一つの手に盆を持っていたが、その盆の上には二つの茶碗と、小さな茶漉《ちゃこ》しとが置いてあった。そうして砂糖|壺《つぼ》とが置いてあった。
「うん、よろしい、そこへ置け」こう云って玄卿は頤《あご》をしゃくった[#「しゃくった」に傍点]。
「いやナニ鏡葉之助殿、これは南蛮茶と申しましてな、日本ではめった[#「めった」に傍点]に得られないもの、たいして美味でもござらぬが、珍らしいのが取柄《とりえ》でござる」
 こう云いながら玄卿は、湯差しを手ずから取り上げると、茶漉しの上から茶碗の中へ深紅の液を注ぎ込んだ。それから匙《さじ》で砂糖を入れた。
「まず拙者お毒味を致す」
 こう云うと一つの茶碗を取り上げ、半分ばかりグッと呑んだ。
「温《ぬる》加減もまず上等、いざお験《ため》しくださいますよう」
「さようでござるかな、これは珍味」
 葉之助は茶碗を取り上げたが、そこでちょっとためらった[#「ためらった」に傍点]。

         五

 茶碗を取り上げた葉之助が、急に飲むのを躊躇《ちゅうちょ》したのは、当然なことと云わなければならない。

前へ 次へ
全368ページ中268ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング