云われるままに、木戸を潜ることにした。
四
女がコツコツと戸を叩くと、内側へスーと切り戸があいた。プーッと匂って来る快い匂い、まず葉之助の心をさらった[#「さらった」に傍点]。
はてな[#「はてな」に傍点]と思いながらはいったとたん、思わずあっ[#「あっ」に傍点]と声を上げた。
黒い高塀に囲まれているので、往来からは見えなかったが、庭一面に草花が爛漫《らんまん》と咲き乱れているのであった。
「これは綺麗な花園でござるな」感嘆して立ち止まった。
するとその時|園丁《えんてい》と見えて、鋤《すき》を担いだ大男が花を分けて現われたが、二人の姿をチラリと見ると逃げるように隠れ去った。
「咽《む》せ返るようなよい匂いだ」葉之助は幾度も深呼吸をしたが、「これは何んという花でござるな?」
「大茴香《おおういきょう》でございます」
「おおこれが茴香《ういきょう》か。ふうむ、実に見事なものだ。茴香といえば高価な薬草、さすが大槻玄卿殿は、当代名誉の大医だけあって、立派な薬草園を持っておられる」
さすがの葉之助も感心して、園に添って歩いて行った。すると一箇所一間四方ぐらい、そ
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