なりません。そのお別れも数日の間に逼《せま》っているのでございます。アラ嬉しやアラ嬉しや! ついては今日は特別をもって、我ら窩人がいかに勇猛で、そうしていかに野生的であるかを、お眼にかけることに致しましょう。我らにとって熊や猪は、仲のよい友達でございます。その仲のよい友達同士が、相《あい》搏《う》ち相《あい》戯《たわむ》れる光景は必ず馬鹿者の下界人にも、興味あることでございましょう。実に下界人の馬鹿たるや、真に度しがたいものであって……」
「引っ込め、爺《じじい》」
と見物は、今や総立ちになろうとした。
と突然杉右衛門は、楽屋に向かって声をかけた。
「さあ出て来い、岩太郎!」
「応!」
と返辞《いらえ》る声がしたが、忽《たちま》ち一個の壮漢が、颯《さっ》と舞台へ躍り出た。年の頃は四十五、六、腰に毛皮を巻きつけたばかり、後は隆々たる筋肉を、惜し気もなく露出《むきだ》していたが、胸幅広く肩うずたかく、身長《せい》の高さは五尺八寸もあろうか、肌の色は桃色をなし、むしろ少年を想わせる。
「や!」
と叫ぶと檻《おり》の戸をムズと両手でひっ[#「ひっ」に傍点]掴《つか》んだ。
江戸
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