ったか、ご苦労ご苦労、疲労《つか》れたであろう、休息するよう」
 云いすてて置いて北山は、自分の部屋へつと[#「つと」に傍点]はいった。
 書面をひらいて読み下すと、次のような意味のことが書いてあった。

[#ここから2字下げ]
「前略、とり急ぎしたため申し候《そうろう》、さて今回金一郎様、不慮のことにてご他界遊ばされ、君臣一同|愁嘆至極《しゅうたんしごく》、なんと申してよろしきや、適当の言葉もござなく候、しかるに当夜私事、偶然のこととは云いながら、二、三怪しき事件に逢い、疑惑容易に解《と》き難きについては、先生のご意見承わりたく、左に列記|仕《つかまつ》り候。
 当日、私非番のため、家を出でて市中を彷徨《さまよ》い、深夜に至りて帰路につき、愛宕下まで参りしおりから、蘭医大槻玄卿邸の、裏門にあたって一挺の駕籠、忍ぶが如くに下ろされおり、何気なく見れば一人の老人まさにその駕籠に乗らんとす。しかるに全く意外にも該《がい》老人こそ余人ならず、先生にもご存知の大鳥井紋兵衛、これは怪しと存ぜしまま後を慕って参りしところ、紋兵衛の駕籠は根岸に入り我らが主君には実のご舎弟、帯刀様のお屋敷内へ、姿を隠
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