時であったが、幽かな幽かな笛のような[#「ような」に傍点]音が、彼の眼の前の地面を横切り、駿河守の下屋敷の方へ、走って行くのを耳にした。
「なんであろう?」と怪しみながら、彼はじっ[#「じっ」に傍点]と耳を澄ませ、その物の音に聞き入った。音は次第に遠ざかって行った。そうして間もなくすっかり消えた。
 なんとなく気味悪く思いながら彼は尚しばらく佇《たたず》んでいた。
「お、これは?」と呟くと、彼はツカツカ前へ進み、顔を低く地面へ付けた。と、地面に何物か白く光る物が落ちていた。そうしてそれは白糸のように一筋長く線を引き、帯刀家の下屋敷と、駿河守の下屋敷とを、一直線に繋《つな》いでいた。
「石灰《いしばい》かな?」と呟きながら、指に付けて嗅いで見て、彼はアッと声を上げた。強い臭気が鼻を刺し、脳の奥まで滲《し》み込んだからで、嘔吐《はきけ》を催させるその悪臭は、なんとも云えず不快であった。
 何か頷くと葉之助は、懐中《ふところ》から鼻紙を取り出したが指で摘《つま》んで白い粉を、念入りにその中へ摘《つま》み入れた。それから静かに帰路についた。

 その夜が明けて朝となった。
 いつも早起きの金一
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