じように総《あらゆ》る人間に付きまとっている」
「それは何者でございましょう?」
「黒法師とでも云って置こう。また悪玉と云ってもよい。したがって私は善玉で。……三世を貫く因果なるものはこの善玉と悪玉との勝負闘争に他《ほか》ならない。……しかしこれは事新しく私が説くには当たるまい。とは云えお前の身の上に降りかかっている悪因縁はその黒法師の為《な》す業じゃ。そうして少くも現在《いま》のところでは私の力ではどうにもならぬ。時節を待つより仕方がない。……しかもお前は産みの母の呪詛《のろい》の犠牲になっているばかりか、今や新しく種族の犠牲にその身を抛擲《なげう》とうと心掛けている」
「種族? 種族? 種族とは?」
「お前の属する種族の事じゃ」
「私は士族でございます」
「さよう、今はな、今は武士じゃ」
「元から武士でございました」
「そうではない、そうではない」
「では何者でございましょう?」
「それは云えぬ。今は云えぬ。それをお前へ教える者は他でもない黒法師じゃ」
「その黒法師はどこにおりましょう?」
「あらゆる人間に付きまとっている。だからお前にも付きまとっている」
「私の眼には見えませぬ」
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