は笑い出したが、
「これは何をおっしゃることやらとんと[#「とんと」に傍点]私には解りませぬ。私の実の父も母も飯田の城下に健《すこや》かに現在《ただいま》も生活《くら》しておりますものを、臨終《いまわ》の妄執だの亡魂だのと、埒《らち》もないことを仰《おお》せられる。お戯《たわむ》れも事によれ、程度《ほど》を過ごせば無礼ともなる。もはやお黙りくださるよう。私、聞く耳持ちませぬ!」
 果ては少しく怒りさえした。

         二六

 すると神々しいその人は、さも気の毒と云うように、慈愛の眼差しで葉之助を見たが、
「お前の父母は何んと云うな?」
「父は南条右近と申し、信州飯田堀石見守の剣道指南役にござります。母は同藩の重役にて前川頼母の第三女お品と申すものにございます」
「さようさようそうであったな。それは私《わし》も知っておる。しかしそれは仮り親じゃ」
「ナニ、仮り親でございますと? 奇怪な仰せ、その仔細は?」葉之助は気色ばむ。
「いやいやそれは明かされぬ。しかしそのうち自然自然|明瞭《あきらか》になる時節があろう。その時節を待たねばならぬ」
「先刻より様々の仰せ、不思議なことばか
前へ 次へ
全368ページ中192ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング