だが、「何んとそうではござらぬかな」
「いえいえそれも違います。私の幼名は右三郎、このように申しましてございます」
「さようさようそんな時代もあった。しかしそれはわずかな間じゃ。しかもそれは仮りの名じゃ。方便に付けた名であったがしかしその事はやがて自然に解るであろう。そうしてそれが解った時から、お前は悲惨《みじめ》な人間となろう。恐ろしい恐ろしい『業《ごう》』の姿がまざまざお前に見えて来よう。世にも不幸な人間とは、他《ほか》でもないお前の事じゃ。お前は産みの母親の呪詛《のろい》の犠牲《いけにえ》になっているのじゃ。そうしてお前は実の父親をどうしても殺さなければならないのじゃ。しかしそれは不可能のことじゃ。子として実の父親を殺す! これは絶対に出来ないことじゃ。出来ないからこそ苦しむのじゃ。そこにお前の『業』がある……お前は不幸な人間じゃ。母の怨みを晴らそうとすればどうでも父親を殺さねばならぬ。子としての道を歩もうとすれば、母親の臨終《いまわ》の妄執《もうしゅう》を未来|永劫《えいごう》解《と》くことが出来ず、浮かばれぬ母親の亡魂をいつまでも地獄へ落として置かねばならぬ」
 すると葉之助
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